
信号待ちの車内、革のシートが夜の体温を抱きしめる。
ネオンが窓を滑り、彼女の鎖骨に薄い光を置いていく。
大人の彼女は、指先でシートベルトの線をなぞり、静かな微笑みを浮かべた。
ミントの香りがエアコンに溶け、エンジンの鼓動が胸の間で小さく共鳴する。
ルームミラー越しの視線が絡んだ瞬間、都会の喧騒が遠のく。
ほどけそうでほどけない距離に、熱だけがやわらかく積もっていく。
信号が青に変わると、彼女は唇をゆっくり結び直し、ヒールで夜を押し出す。
流れる景色の中、秘密めいたため息だけが、窓の曇りに小さく残った。






