
夜気は金属の匂いを運ぶ。
彼女は静かに銃を握り、街灯の光を滑らせた。
頬をかすめる風は冷たく、胸の奥で鼓動だけが確かなリズムを刻む。
引き金に添えた指先は、過ぎた夜の記憶をなぞる。
迷いは薄く、しかし消えない。
狙いの先にあるのは、標的だけではなく、自分が選んだ孤独の輪郭。
乾いた路地に靴音が跳ね、息は短く甘い。
危うさは香りとなって肌にまとわり、夜は彼女の背に長い影を落とす。
撃つべき時と抱きしめたい衝動、その境目だけが温かい。
夜明け前、彼女はまだ引き返さない。
薄桃の空が、決意の輪郭をやさしく縁取る。






