
路地の風が錆びた看板を揺らし、彼女は鞘に収めた剣をそっと抱いた。
黒いシャツの彼は壁にもたれ、目だけで街のざわめきを測る。
言葉より先に、二人の呼吸が同じ速さを見つけていく。
刃が拾う灯りは冷たいのに、その映り込みの奥で、彼の瞳だけがやわらかい。
触れはしない距離で、互いの古い傷の輪郭をなぞるように、短い約束を交わした——今夜は、誰も斬らない。
雨の気配が近づく。
彼女は柄を軽く握り直し、彼は襟を整える。
歩き出す影は二つで一つ。
守るものはまだ名前を持たないが、夜明けまでにはきっと呼び名が生まれる。






