
彼女は白いシャツの襟を整え、湿った夜気を胸に吸い込む。
街灯の輪が路面にほどけ、金属の冷たさは掌でひとつの約束に変わる。
足音は薄く、心は静かに整列する。
引き金は誰かを傷つけるためではなく、迷いを切り離すための句読点。
彼女は息を数え、雨だまりの静けさに耳を澄ませた。
名もなき決意だけが、胸の鼓動をなぞる。
遠くで始発前の風が鳴る。
振り返らない背に、まだ見ぬ朝が薄く差す。
選んだのは夜ではなく、夜の向こうにある明日だ。
白い布は濡れても透けず、凛とした直線を保つ。
手の中の重みは恐れではない、歩き出すための重力にすぎない。






