花の野に立つ彼女、光と風のささやきが残る

花の匂いが、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと広がる。
陽に透けるワンピースの裾が、草いきれをすくい上げ、見えない波のように揺れていた。
空の青さが、瞳にそっと溶け込む。
指先で一輪をそっと撫でるたび、眠っていた記憶がやわらかく起きる。
名前のない色、忘れかけた約束、胸の奥でほどける小さなため息。
その瞬間だけ、世界は薄いベールをまとい、時間は花粉のように舞う。
彼女は振り返らない。
風が代わりに、行き先をやさしく示していた。

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