薄桃のドレス、鍵盤が囁く深夜の密やかな約束

薄桃のドレスが、黒い響板に春の息を落とす。
彼女は鍵盤の上ではなく、静かな天板に腰を預け、月明かりを一口ずつ味わっていた。
閉じた蓋の下で眠る和音に指先を沿わせると、未だ弾かれない曲が胸元でゆっくりと目を覚ます。
香りは甘く、音はまだ遠い。
夜更け、鳴らさない音のために背筋を伸ばし、微笑だけを置いていく。
触れずに近づく、その距離がいちばん艶やかだと知っているから。

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