月灯りに揺れる襟元、そっとほどける願いごと

畳の匂いがまだ袖に残る。
薄い絹が肩をなで、結び目は静かに呼吸している。
彼女は灯りに背を向け、襟元に夜の気配をたたえた。
歩を進めるたび、柄が月光を拾い、黒髪の先がそよぐ。
見えそうで見えないうなじが、路地の風をやさしく誘い込む。
言葉は要らない。
ただ、指先に触れた温度と、かすかな香だけが時間を遅くする。
ほどけないように、ほどけたいように、心は結び直されていく。
いつかの夏祭りの記憶が、帯の裏側で目を覚ます。
遠くで鳴る鈴の音が、今夜の静けさにやわらかく溶けた。

Subscribe
Notify of
guest
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
紙の匂いと午後を編む、窓辺の彼女の静かな時間
風に揺れる白シャツ、花影でほどける午後のひと呼吸
白シャツの彼女、花景色と静けさを分け合う午後
白衣のデスク、青い画面に滲む静かな脈拍音
夜更け、ナースデスクに揺れる灯と息の気配
黒板とマフラー、冬の教室に灯る約束の笑み
0
Would love your thoughts, please comment.x
()
x