月灯りに揺れる襟元、そっとほどける願いごと 畳の匂いがまだ袖に残る。薄い絹が肩をなで、結び目は静かに呼吸している。彼女は灯りに背を向け、襟元に夜の気配をたたえた。歩を進めるたび、柄が月光を拾い、黒髪の先がそよぐ。見えそうで見えないうなじが、路地の風をやさしく誘い込む。言葉は要らない。ただ、指先に触れた温度と、かすかな香だけが時間を遅くする。ほどけないように、ほどけたいように、心は結び直されていく。いつかの夏祭りの記憶が、帯の裏側で目を覚ます。遠くで鳴る鈴の音が、今夜の静けさにやわらかく溶けた。 #うなじ#単体#和服・浴衣#和風#夜#清楚#着物#黒髪