薄香る着物、路地に灯る静かな微笑み今宵ひとひら

提灯の赤が、絹の紺をやわらかく染める。
襟元に落ちた月の粉、かすかな白が夜気にほどける。
歩幅は音を立てず、袖がさざめけば、昔日の歌が耳裏でひらり。
彼女は振り向かない。
帯の結びは凛と、指先は四季の風のようにしなやかだ。
目に宿る灯りは、誰かの名を言わずに、ただこの路地の影を照らしている。
すれ違う一瞬、香の残り火が心に触れた。
名前も知らぬまま、胸に小さく「また」と呟く。
夜は深まり、着物の気配だけが、静かに世界を整えていった。

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紙の匂いと午後を編む、窓辺の彼女の静かな時間
風に揺れる白シャツ、花影でほどける午後のひと呼吸
白シャツの彼女、花景色と静けさを分け合う午後
白衣のデスク、青い画面に滲む静かな脈拍音
夜更け、ナースデスクに揺れる灯と息の気配
黒板とマフラー、冬の教室に灯る約束の笑み
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