
退社のチャイムが溶け、静まったフロアにヒールの余韻。
タイトなスカートの裾がふわりと揺れ、彼女はファイルを胸に抱えた。
スーツの彼はネクタイを緩め、夜の空気を吸い込む。
二人とも、長い一日の終わりに少しだけ素肌のような素直さを纏う。
すれ違うたび、香りと視線が触れては離れる。
言葉にしない約束が、蛍光灯の淡い明かりの下で静かに芽吹く。
彼の袖口に残るインク、彼女の手首で光る薄い金の輪。
些細なきっかけが、心拍を一拍分だけ速くする。
エレベーターを待つ間、彼は低く「お疲れさま」と告げ、彼女は小さく微笑む。
扉が開く寸前、二人の影が重なって、世界は一瞬だけやわらかくなる。
明日もまた、この廊下で—少しだけ近い距離で、続きを確かめるために。






