フェティッシュな爪先
レンガの壁が、夕陽を吸い込む。
指先で地面を確かめ、彼は静かに世界を逆さにした。
空に蹴り出された足が、薄い風を掴み、足裏は雲の縁を探る。
街のざわめきが遠くなり、血の鼓動だけが真っ直ぐに響く。
重力は今日だけ友だちをやめ、時間は掌の上で転がった。
鳩が一拍遅れて羽ばたき、レンガは古い記憶のようにぬくもりを返す。
見上げるはずの景色を見下ろして、彼は笑う代わりに呼吸を深くした。
落ちることを恐れないわけじゃない。
ただ、宙に浮いた足が教えてくれる。
いま、ここで、身体が覚える自由は、言葉より静かで、確かだ。
夕暮れの色が濃くなるたび、彼の影は少しだけ長くなる。